張即之の書の魅力|鋭い楷書が放つ緊張感と、日本禅宗を魅了した理由
今回は、張即之(ちょう そくし)の書をご紹介します。
やわらかく流麗な筆使いが多い宋代の書において、彼の文字はまるで刃物のように鋭く、見る者を圧倒する独特の緊張感をまとっています。今回は、そんな南宋の名筆・張即之の書の魅力について。
張即之とはどんな人物? 宋代の書壇における「異端にして正統」
南宋を代表する孤高の書家
張即之は、12世紀末から13世紀半ば(1186年〜1266年)にかけて活躍した南宋の書家です。号は樗寮(ちょりょう)。 名門の家に生まれ、幼少期から書に親しむ恵まれた環境にあったとされていますが、その生涯や経歴には細かい謎も多く、歴史のロマンを感じさせます。
「尚意(しょうい)」の時代に貫いた独自のストイックさ
宋代の書といえば、蘇軾(そしょく)、黄庭堅(こうていけん)、米芾(べいふつ)といった面々に代表されるように、個人の心情や自由な表現を重視する「尚意(しょうい)」の気風が主流でした。
まわりの書家たちがのびのびと個性を爆発させている中で、張即之はあくまで楷書を軸に据え、独自の厳格な世界観を突き進みました。まるで、にぎやかなお祭りの片隅で、ひとり静かに刀を研ぎ澄ませているかのような——そんな孤高の佇まいが、彼の最大の持ち味だといえます。
ここが凄い!張即之の書の3つの魅力
では、具体的に彼の書のどこがこれほどまでに私たちの心を揺さぶるのでしょうか。大きく3つのポイントに分けて見ていきましょう。
1. 研ぎ澄まされた「転折(折れ)」の美学
張即之の書を語る上で絶対に外せないのが、あのキリッと角張った「転折(折れ曲がり部分)」です。
筆をしっかり立て、迷いなくカクッと折る。その一画一画に一切の妥協やためらいがありません。線自体はやや細めでありながら、そこから発せられるピリッとした空気感と切れ味。
2. 右上がりの勢いと、窮屈さを感じさせない「のびやかさ」
角張った硬質な線というと、ともすれば窮屈でカチコチな印象になりがちですよね。しかし、張即之の文字は不思議とそうなりません。
横画はしっかりと右上がりに傾け、ぐいっとダイナミックに伸ばす。このアグレッシブな動きが文字全体に心地よいリズムを生み出しています。端正な骨格をしていながら、どこか軽やかな風が吹き抜けていくような、絶妙なバランス感覚に驚かされます。
3. 大字(大きな文字)でも絶対に崩れない圧倒的な迫力
大きな文字を書こうとすると、どうしても線が間延びしたり、力が逃げてしまったりするもの。ところが、張即之は違います。
どれほど大きな文字であっても、筆勢が途中で緩むことがありません。むしろ、サイズが大きくなればなるほど、その緊密な構造と迫力が際立ちます。寺院の扁額などに彼の書が多いのも、納得のひと言です。
日本の禅宗寺院と張即之の深い縁
実は、張即之の書は日本でも大変に重宝されてきました。
鎌倉時代、多くの日本の禅僧たちが仏法を学ぶために宋へと渡りましたが、彼らは帰国の際、こぞって張即之の書を持ち帰ったと伝えられています。当時の禅宗の「余計なものを削ぎ落とし、今この瞬間に集中する」という精神性と、張即之の妥協のない凜とした楷書は、引き合ったのでしょう。
個々の作品がどのように日本へ伝来したかなど、細かい歴史的背景については専門的な議論が分かれるところもありますが、日本の墨跡文化や写経の歴史において、彼が残した足跡の大きさが色あせることはありません。
張即之の書を学ぶ(楽しむ)ヒント
「このカッコいい線を自分でも書いてみたい!」と思った方へ、ちょっとしたアプローチのヒントをご紹介します。
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臨書するなら 練習のときは、とにかく転折の角度と筆の立て方に意識を集中させてみてください。丸めない、ブレない、ためらわない。ここが決まると、一気にそれらしい雰囲気が漂い始めます。
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道具選びでキレを出す あのシャープな線を表現したいなら、穂先がキュッとまとまるコシの強い筆が相性抜群です。紙も、あまりに滲みすぎるものよりは、線の輪郭が引き締まる少し枯れた紙を選ぶのがコツです。
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実物を見る感動を大切に 印刷された図版やモニター画面だけでは、墨の立体感や筆の入り込みの妙はなかなか伝わりません。美術館の展覧会などで本物の作品に出会えたら、ぜひ鼻息がかかるほどの距離まで近づいて、じっくりと線の軌跡を追いかけてみてください。
まとめ
張即之の書の魅力は、なんといってもあの鋭利な転折、勢いのある右上がり、そして大字でも微動だにしない圧倒的な迫力にあります。
宋代のなかにあって存在感を放つ彼の書。もしその凛とした線に少しでも心惹かれるものがあったら、ぜひ次の休日は硯をすって、筆を執ってみてはいかがでしょうか。
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「張即之」2020年7月3日
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