関戸本古今集の魅力 流れるような「連綿美」と躍動感の世界

書道
投稿日:2026年8月20日
関戸本古今集の魅力

『関戸本古今集』の魅力に迫る!流れるような「連綿美」と躍動感の世界

今回は『関戸本古今集(せきどぼんこきんしゅう)』について触れたいと思います。

仮名(かな)の書を学ぶ人であれば、一度は臨書(りんしょ:手本を見て書くこと)の課題として手にしたことがあるのではないでしょうか。教科書にも当然のように載っている超有名どころですが、「で、具体的に何がそんなに凄いの?」と聞かれると、口ごもってしまう人は意外に多いはず。

『関戸本古今集』が、なぜ時代を超えて人々を魅了し続けるのか、その魅力を紐解いていきます。

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『関戸本古今集』ってどんな古典?

まずは基本データからサクッとおさらいしておきましょう。

『関戸本古今集』は、平安時代に書き写された『古今和歌集』の写本(手書きのコピー)のひとつです。

誰が書いたの?(伝承筆者のお話)

昔から「藤原行成(ふじわらのゆきなり・こうせい)」が書いたと伝えられてきました。行成といえば、和風の書(和様)を完成させた三色(小野道風・藤原佐理・藤原行成)のひとりとして超・有名人ですよね。

ただ、ここでひとつ種明かし。 「本当に行成が書いたのか?」というと、実は現代の研究では否定的な見方が優勢です。

平安時代の古筆(こひつ)には、価値を高めるために後世の人が有名な書家の名前を勝手につけたものが山ほどあります。関戸本もそのパターンというわけ。とはいえ、誰が書いたかは謎のままでも、作品自体の圧倒的なクオリティが落ちるわけではありません。

「関戸」って地名じゃないの?

「関戸本」というネーミング、なんとなく「関戸宿」とか地名を想像しませんか? 実はこれ、人名なんです。

江戸時代、尾張(現在の愛知県名古屋市)の裕福な商家であり、数々の名品を所蔵していた豪商・関戸家が所有していたことから、この名前がつきました。 「持ち主の名字がそのまま作品名になる」というのは古筆の世界ではよくある話で、これを知っておくと他の古筆の名前もすんなり覚えられるようになりますよ。

ここを見てほしい!『関戸本古今集』3つの沼落ちポイント

この古典、見れば見るほど味わい深い魅力があります。筆者が特に「ここに注目してほしい!」というポイントを絞ってみました。

1. 途切れない躍動感!「連綿」の緩急
2. 息をのむ「余白」の美学と散らしのセンス
3. 線の太細が生み出す立体感

① スピード感と緩急が生む「連綿の躍動」

一番の見どころは、やっぱり「連綿(れんめん)」——文字と文字が細い糸でつながっていく、あの流れるようなラインです。

関戸本の連綿は、ただ機械的に文字をつないでいるわけじゃありません。 あるところはサラリと速く、あるところはぐっと重厚に踏みとどまる。この太さとスピードのグラデーションが絶妙で、「呼吸(リズム)」を感じさせてくれます。

仮名の最高峰と言われる『高野切(こうやぎれ)第一種』と比べると、その違いは歴然。

  • 高野切: 端正で、しずかで、スキがない優等生的な美しさ

  • 関戸本: 動的で、どこか軽やか。線が生き生きとした躍動感

この「動き」こそが、関戸本最大の病みつきポイントなのです。

② 計算し尽くされているのに自然な「余白の美」

文字そのものの形だけでなく、紙の上の「何も書かれていない部分(余白)」にも注目してみてください。

行と行の間をどう空けるか。どこで改行し、どこで文字を小さく沈ませるか。 関戸本の紙面(いわゆる「散らし書き」)は、完璧に計算されているはずなのに、嫌な「作意(狙った感)」が一切見えてきません。風がふっと吹き抜けたあとのようなナチュラルさ。この「狙っていないように見せる高度なテクニック」には脱帽するしかありません。

初心者でも大丈夫?臨書(りんしょ)の手引き

「こんなすごそうな古典、自分に書けるのかな…」と引いてしまう必要はありません。むしろ、伸び悩んでいる人にこそチャレンジしてほしいのが関戸本です。

なぜ臨書におすすめなのか?

  • 筆のスピード感が肌で理解できる

  • 文字の「つながり(脈絡)」を意識する癖がつく

  • 紙面全体を見渡す視野(配字のセンス)が養われる

最初は正直、線がへろへろになったり、形を追いかけるだけで手いっぱいになるのが普通です。それで全然OK! 何度も同じ箇所を練習していくうちに、「あ、ここで筆の圧力を抜いているんだ」「この曲線があるから次の文字へスムーズに跳べるんだ」という気づきが、ある日突然訪れます。その感覚を一度掴むと、自分の書く文字が見違えるように生き返ります。

まとめ:形を写すのではなく、「線のドラマ」を体感しよう

『関戸本古今集』は、ただ綺麗な文字が並んでいるだけの展示品ではありません。 約千年前にこれを書いた「誰か」の、息遣いや筆を走らせる腕の動き、その場の躍動感がそのまま固まって残っているような、きわめて生々しく美しい「ドラマ」です。

次に書道展で目にする機会があったら、あるいは半紙に向かって筆を握るときは、ぜひ「形」の奥にある「流れとリズム」に注目してみてください。 きっと、これまで以上に書道が、そして仮名の世界が面白くなるはずです!

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