八大山人の書の魅力とは?
八大山人(はちだいさんじん)の書、見たことありますか?
一見すると、拍子抜けするほどシンプルで素朴。「これ、上手いの…?」と首をかしげる人もいるかもしれません。ところが、じっと眺めていると、じわじわ効いてくるんです。
「なんだこの線は…」と足を止めてしまう不思議な魔力。
今回は、明末清初の激動期を生き抜いた孤高の芸術家・八大山人の「書の魅力」を、専門知識を噛み砕きながら分かりやすくご紹介します。
八大山人とはどんな人物?波乱に満ちた人生と謎
八大山人は、明末清初(17世紀頃)の中国で活躍した画家であり書家です。
本名は朱耷(しゅとう)。実は、明王朝を開いた朱元璋(しゅげんしょう)の末裔にあたり、皇族の血を引くサラブレッドとして生まれました。
生没年は1626年〜1705年頃とされていますが、正確な月日や生い立ちの細部には諸説あり、今なお謎が多い人物でもあります。
明の滅滅と、僧としての遁世
19歳のとき、祖国である明王朝が滅亡。清王朝の支配が始まります。
皇族の生き残りであった彼は、命の危険と強い精神的ショックから、髪を剃って僧門に入り(のちに道教の世界へ転じます)、世間から身を隠すように生きました。さらに、偽の狂気を装って喋らないフリ(聾唖)をしたという奇行の逸話まで残されています。
こうした亡国の悲しみと、激動の時代を揺れ動いた孤独な人生が、彼の生み出す作品の奥底に暗い影と研ぎ澄まされた静寂をもたらしているのです。
八大山人の書の魅力|なぜ人々は引き込まれるのか?
八大山人の書には、一般的な「巧みな書」とは明らかに一線を画す、独特の凄みがあります。大きな魅力は次の3つです。
① 太さがほぼ変わらない「ぬるり」とした丸みのある線
八大山人の書を見て、真っ先に目がいくのは線の表情です。
一般的な書道では、筆圧の強弱(抑揚)をつけて線の太さに変化をつけますよね。ところが彼の線は、驚くほど太さが一定。
これは、筆先を線の中央に通して真っ直ぐ進める「中鋒(ちゅうほう)」という基本を徹底して突き詰め、篆書(てんしょ)や蔵鋒(ぞうほう)の質感をかなりのレベルで取り込んでいるからです。
派手な演出や飾り気はゼロ。それなのに、まるで丸みのある金属棒で彫りつけたような「芯の強さ」と「不気味なほどの落ち着き」があります。
② 余白を味方につけた「引き算の構図」
八大山人の水墨画では、画面のほとんどを空白にして、ぽつんと魚や鳥を描く大胆な構図が知られていますが、この感覚は書にも通底しています。
文字をぎゅうぎゅうに詰め込まない。行の間も、字と字の間も、とにかくゆったり。
「文字そのもの」ではなく、「書かれていない白」で語らせているんですね。まさに極限の引き算。現代のミニマル・アートに通じる洗練された感覚があり、いま私たちが目 traditional な書法として見ても全く古さを感じさせません。
③ 署名「八大山人」に隠された泣き笑いの謎
ファンの間で語り継がれている有名な謎が、彼の署名デザインです。
落款に草書体で書き連ねた「八大山人」の4文字。
これを離れて見ると、「哭之(これをこくす=泣く)」あるいは「笑之(これをわらう)」という文字に見えるようにデザインされている、という有名な説があります。
「泣いてもいるし、笑ってもいる」。滅び去った故国への尽きない悲しみと、世の中への諦念や皮肉が込められている……そう解釈すると、急にドラマチックに見えてきませんか?
ただし、これが本当に本人の意図したものかどうかを確実に裏付ける歴史的資料があるかといえば、正直そこまでは断言できません。分かり得ない謎があるからこそ、時を超えて私たちの妄想を掻き立てるわけです。
実際に臨書するときの3つのヒント
「一見シンプルだから自分でも書けそう!」
そう思って手本を広げ、筆を握った経験のある書道経験者は多いはず。……そして、一瞬で返り討ちに遭います。八大山人の臨書は、実はとんでもなく難しいのです。
もし挑戦してみたいなら、次の3点を意識してみてください。
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抑揚をつけたい誘惑に耐える:筆を押し付けたり払ったりしたくなる気持ちをグッと抑え、均一な力加減で線を引く。
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余白を恐れずに字を小さく置く:紙いっぱいに大きく書こうとせず、文字と文字の間の「空気」を置く意識を持つ。
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呼吸を整えて、急がない:雑念を捨て、息を静かに吐き出しながら、じっくりと筆を進める。
まずは、いきなり筆を持たずに法帖や複製図版をじっくり鑑賞し、あの「独特のヌメり感」を目に焼き付けるのがおすすめです。手本選びに迷ったら、信頼できる書道教室の先生にアドバイスをもらうのもおすすめです。
まとめ:八大山人の書は、静かな空間に響く「心の叫び」
八大山人の書には、分かりやすい巧みさや派手な技巧はありません。
けれど、削ぎ落とされた静かな線の奥底には、時代に翻弄された人間の「生々しい人生の重み」が透けて見えます。静寂のなかで、静かに、しかし激しく叫んでいるような書なのです。
王道で絢爛豪華な名筆に少し心が疲れてしまったとき、ぜひ八大山人の作品を眺めてみてください。
きっと、あなたの書に対する見方が、ひとつ深く広がるはずです。
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「八大山人」2020年7月5日
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