「小島切」の魅力とは? 平安のかな古筆に宿る、静かな色気
今回は「小島切(こじまぎれ)」の魅力についてご紹介します。
派手でドカンと主張してくるタイプじゃない。でも、じーっと眺めていると、いつの間にかその世界に吸い込まれてしまう。そんな不思議な磁力を持った古筆切り(こひつぎれ)の魅力を、今日はたっぷり語り尽くしてみようと思います。
そもそも「小島切」ってどんな古筆?
『斎宮女御集』を書き写した、気品あふれる冊子の破片
小島切は、平安時代の歌人として名高い徽子女王(きしのじょうおう/斎宮女御)の私家集である『斎宮女御集(さいぐうのねobjectしゅう)』を書写した冊子本、その断簡(切り取られた一部分)です。
もともとは「綴葉装(てっちょうそう)」という、糸で束ねたノートのような冊子でした。それが後世、鑑賞用や売買のためにバラバラに解体され、掛け軸などに仕立て直されて現代に伝わっています。
「バラバラにしちゃうなんて勿体ない!」と思うかもしれません。けれど、この「切(きれ)」という形態になったからこそ、現代の私たちが展覧会や床の間で気軽にその美を楽しめるようになった、という皮肉で贅沢な側面もあるんですよね。
「伝・小野道風」の真相――11世紀後半の残り香
昔からの伝承では、三筆・三跡の一人である小野道風(おののとうふう)が書いたとされてきました。
……が、ぶっちゃけ言ってしまうと、これは「伝」に過ぎません。
近年の研究では、実際の書写時期は道風の時代(10世紀前半)よりもずっと下った11世紀後半(平安後期)とみるのが有力です。つまり「道風レベルの凄まじい風格があるよね」という鑑定上の見立てから名前が借りられた格好になります。
実際の筆者が誰なのか、決定的な資料は残っていません。正直、いまも闇の中。でも、誰が書いたか分からないからこそ、純粋に「線」そのものと向き合える気がしませんか?
名前の由来は「名物オーナー」から
古筆の名前って、発見された場所や持ち主から命名されるケースがほとんどです。小島切も例に漏れません。
名前のルーツは江戸時代。あの本阿弥光悦の門下であり、中国・宋時代の書家である黄山谷(こうさんこく)の豪快な書風を学んで「宗真流(そうしんりゅう)」を打ち立てた書家・小島宗真(こじまそうしん)が愛蔵していたことに由来します。
作者のネームバリューではなく、愛好家の名がそのまま作品名として残る。ちょっと紛らわしいけれど、歴史のバトンリレーを感じさせてくれて実に味わい深い話です。
小島切ならではの、うっとりする3つの美しさ
1. 藍と紫の「飛雲」、そして光る雲母(きら)の砂子
小島切を語るうえで絶対に外せないのが、その変態的(褒め言葉です!)なまでに凝った料紙(りょうし)です。
ベースは上質な鳥の子紙。そこに藍色や紫色の染め繊維をふわりと雲のように漉(す)き込んだ「飛雲(とびぐも)」の技法が施されています。さらにその上から、鉱物粉末である雲母(きら)の砂子がチラチラと撒かれているのです。
実物を少し角度を変えて光に透かしてみると、青紫のグラデーションの奥から、金銀とは一味ちがう慎み深い輝きがぼんやり浮かび上がります。
なお、同じ系統の料紙を使った古筆として「敦忠集切(あつただしゅうぎれ)」や「伊予切(いよぎれ)」が有名で、これらは同時代・同工房で作られた「兄弟作品」のような関係だと考えられています。
2. 長鋒(ちょうほう)が生み出す、しなやかな線
紙の美しさもさることながら、筆遣いがまた凄まじい。
使われているのは、穂先がすらりと長い長鋒の筆と推測されています。だからこそ、線がどこまでも伸びやかで、柳のようにしなやか。
墨がたっぷり乗った太い部分から、掠れ(かすれ)ながら細くかすかに繋がる線への移行。その切り替えのリズム感が完璧なのです。
3. 計算された「呼吸」と余白の美
字の形だけを追いかけても、小島切の空気感は再現できません。真の魅力は「余白の取り方」にあります。
紙に散りばめられた飛雲の模様と、書かれた文字が、まるでお互い会話をしているかのように配置されている。筆圧をふっと抜く一瞬の「間(ま)」。この独特の呼吸感こそが、見る者を惹きつけて離さない静かな色気の正体です。
書道愛好家が「小島切」の臨書から学べること
もしあなたが小島切を臨書(りんしょ)するなら、ただ文字の形をなぞるだけでは少し勿体ないです。ぜひ次のポイントを意識してみてください。
-
「線の太さ」より「置く場所」を見る 小島切の筆者は、紙の模様(飛雲)をしっかり意識して文字を置いています。「この模様があるから、あえてここに文字を落としたのかな?」と想像しながら臨書すると、空間の捉え方が劇的に変わります。
-
筆圧の抜きどころ(脱力)を掴む 長鋒ならではのしなやかな線を出すには、手に余計な力が入っていると一発でバレます。かすれと墨継ぎの周期をじっくり観察し、力を抜く「間」を体感してみてください。
まとめ
小島切は、作者不詳というミステリアスな背景、江戸時代のツウな書家に愛された歴史、そして息をのむほど美しい料紙と線美……このすべてが奇跡的なバランスで調和した逸品です。
もし美術館や展覧会で本物に出会う機会があれば、ぜひ少し斜めから覗き込んでみてください。紙のほのかな輝きと、平安の書人が残した息づかいが、じわじわと胸に迫ってくるはずです。
~書道ライフを快適・豊かに~
書道専門店 大阪教材社
FAX 072-277-6301
URL http://www.osakakyouzai.com/
E-mail moriki@osakakyouzai.com








