書道墨の保存方法と割れたときの対処法

書道
投稿日:2020年2月29日
賀知章

第17回目の書道専門店のエピソードストーリーは、書道墨の保存方法と割れたときの対処法です。
書道墨は、普段どのように保存されていますか?

墨の保管状態が悪いと、墨の特性が損なわれたり、割れたりすることがあります。
高価な墨や人からいただいた墨であれば、特に気をつけたいですよね。
今回は、書道墨の保存方法と割れたときの対処法について、書道短編小説を通して解説させていただきます。

  1. 書道墨が割れたとき
  2. 書道墨の扱いでしてはいけない2つのこと
  3. 書道墨の正しい保存方法
  4. ヒビ割れやすい墨とヒビ割れにくい墨
  5. 書道墨の補修方法

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書道短編小説 書道墨の保存方法・割れたときの対処法篇

書道墨が割れたとき

私は、滋賀県草津市の駅前マンションで一人暮らしをしている。
会社員になって、今年で12年、JRの新快速で50分ほど電車に揺られて梅田まで出勤している。
付き合ってもうすぐ1年になる彼がいるが、具体的に将来のことを考えても話し合ってもいない。

平日は終日仕事におわれてクタクタだけれど、週末は趣味に没頭する時間をつくっている。
小学校からマイペースで続けている書道だ。
今日は展覧会の出品まで時間がないため、平日の深夜に疲れた体を引きずりながら、画仙紙に向きあおうとしていた。
明日は土曜日で会社も休みだ。
早起きしなくてもよい安堵感が、書道に向かうモチベーションにつながっているのだろう。

いつものように墨を手にとって、硯で墨を磨ろうとした瞬間、いつもと違う感覚を右手に感じた。

右手に持った墨をよく見ると、墨が割れている。

どうしよう、固形墨はこの1丁しか持っていないのに。

墨割れのおかげで、高まっていたやる気に水を差されてしまった。
ちょっとしたパニック状態で、どうするべきか思考停止の状態になっている。

墨が割れたまま磨ることも出来そうだが、このまま放置しておくのも気がかりだ。

なんとか割れた墨を直す対処法は、ないだろうか。

少し思案して、あたりを見回すと、傍らに置いていたiphoneが目にとまった。
左手ですくい上げて、慣れた手つきで左手の親指1本で電源を入れた。

ふと右手に墨を持ったままだったことに気づいて、ひび割れた墨を墨床にそっと置いた。

目線を再びスマホの画面に戻し、グーグルのアプリから「墨 割れた 対処法」と検索してみると、大阪府堺市にある書道用品専門店のブログが表示された。

「書道墨の保存方法と割れたときの対処法」というタイトルだった。

そのリンクをタップしてみると、墨が割れたときの対処法が掲載されていた。

ちょうど探していた内容の記事を発見し、思わずまえのめりになって、その記事を読み始めた。

書道墨の保存で、してはいけない2つのこと

湿気は、書道用具にとって大敵です。
墨も同様で、保管する際は湿気を避けるような保存方法を心掛けてください。
書道墨を使うにあたって、避けるべきことがあります。

1.墨を使用後、墨の先が墨液で湿った状態のままで放置する

この状態を放置すると、乾いたときに墨の帯になります。
墨を磨る度にこのような状態を繰り返すと、その墨の帯が大きくなり、団子のようになります。

そこからヒビ割れが発生し、その割れが広がると、墨全体がヒビ割れてしまいます。
墨を磨った後は、すぐに拭き取るようにしてください。
書き損じた半紙や画仙紙で拭くのが最適です。
ティッシュは、墨を拭くには不向きです。柔らかすぎて、墨に付着することがあるからです。

2.墨を磨った後、墨を硯の上にのせたままにする

使用後の墨を硯の上にのせたままにすると、墨と硯が付いて離れなくなる恐れがあります。

墨には、膠(にかわ)が含まれています。膠は接着する性質がありますので、乾いた墨の先と硯の面が付いてしまいます。

無理に外そうとすれば、硯を傷つけてしまいます。
墨を使用した後は、拭いていない状態で硯の上に置かないでください。
墨の濡れた箇所を速やかに拭いて、専用の箱に入れるか、墨床に置くなどしてください。

書道墨の正しい保存方法

書道墨を保存するには、桐箱に入れるのが最適です。
桐箱には、湿気を防ぐ性質が備わっているからです。

湿気があるときは、木の目が膨張して外気の湿気が侵入しません。
空気が乾燥しているときは、乾いた空気が、箱の中に入り込み、空気を循環してくれます。

桐箱に入れることで、虫喰いの防止にもなります。

10円玉を入れておくのも一定の効果があります。
10円の銅が、カビの発生をおさえてくれます。

ヒビ割れやすい墨とヒビ割れにくい墨

和墨(日本製の墨)よりも唐墨(中国製の墨)の方がヒビ割れやすいです。

唐墨の方が膠の含有量が多いため、より湿気と乾燥に反応しやすい特徴があります。
日本の気候になじみにくいこともあると思います。

和墨は、製造工程で充分な乾燥を経て出荷されますので、割れにくいようです。

書道墨の補修方法

奈良の老舗墨メーカー墨運堂が製造している「墨用ボンド スミノセイ」が便利です。

書道専門店であれば、墨用ボンドを販売していますので、確認してください。

墨用ボンドの本体をつまむと、白い液体が出てきますので、墨の割れた部分に直接塗り、もう一方の割れた墨を重ねて貼り合わせます。

重ねたときに、はみ出すボンドは拭き取ります。乾燥すると、白い液体は透明になります。

接着できた墨は、そのまま使用しても磨る上で特に支障なく使っていただけます。

記事を読み終えて、割れた唐墨「黄山松煙」をじっと見た。
墨用ボンドの持ち合わせはない。
今の優先事項は、墨割れではなく、書道作品の制作だ。

とりあえず、今日は割れた墨を使うことをやめにした。

幸いなことに明日は土曜日で、会社は休みだ。
休日を利用して、墨用ボンドを買いに行くことにしよう。

気持ちを切り替えて、書道作品の制作に取り掛かる。

書道道具の保存棚から、愛用している墨運堂の墨液「和同」を取り出してキャップを開ける。
和同の特徴である墨の深い香りが部屋に広がり、心が静寂で満たされていくのを感じる。

墨液を墨池に流し込み、右手で筆を持つ。
筆の穂先を墨液に沈めると、灰色の線の束が漆黒に染まっていく。

穂先の墨量を墨池の端で調整しながら、目線を画仙紙に移す。
視界が徐々に狭くなり、外側がぼやけて薄暗くなる。
真ん中に見据えた画仙紙だけが、大きく、そして鮮明にズームされていく。

起筆から次に連なる線が光になって、これから書くべき線に導いてくれている。

自分の頭上で、もう1人の自分が俯瞰して眺めているように感じる。

これがゾーンという状態か。

超集中状態に入っていく自分を感じながら、墨液を含んだ筆先の黒が、画仙紙の白を滑りはじめた。

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