細光鋒の長い羊毛書道筆

書道
投稿日:2020年1月14日
細光鋒 書道羊毛筆

第7回の書道専門店のエピソードストーリー、今回のテーマは、「細光鋒の長鋒羊毛筆」です。
羊毛の書道筆の中でも、最上級とされる細光鋒の長鋒筆。
どのような特徴があり、どのような線が得られるのでしょうか。

  1. 穂先の長い羊毛筆との出会い
  2. 書道筆に使う細光鋒の基準
  3. 細光鋒の特徴
  4. 穂先の長い羊毛の書道筆を使うメリット

書道短編小説 細光鋒の長鋒羊毛筆篇

穂先の長い羊毛筆との出会い

「この筆、ずっと気になってるんですよ。」

最近、よくお店に足を運んでくださる小山充さんが、店内で私に声を掛けてこられた。
小山さんは、現在30代半ば。

今日は朝から肌寒く、小山さんの服装も黒のニットの帽子に茶色のダッフルコート姿で完全防寒。と思いきや、手袋を忘れたようで、暖かい店内に入ってからも両手をコートのポケットに入れたまま、寒そうに肩をすくめて筆を眺めている。
よほど外が寒かったのだろう。
今年の年末は比較的暖かく暖冬と言われていたけれど、さすがに寒の入り、やはり1年で最も寒い時期なのだ。

小山さんは30歳を過ぎてから書道が好きになり、仕事がお休みの毎週土曜日には、必ずと言ってよい程、新しい書道具を店舗までお求めになる。

小山さんが手にしている筆は、純羊毫の超長鋒筆、穂先の長い羊毛の書道筆で、細光鋒(さいこうほう)。
細光鋒とは、羊毛の中で最も高級とされている箇所だ。

書道筆に使う細光鋒の基準

筆づくりに使う原毛を細光鋒に分類する基準は厳格で、

「長江三角州白山羊」と呼ばれる山羊(地域により呼び名は違います)をある一定条件下で飼育された、去勢していない一才山羊で、かつ交配していない個体を毛質ごとに3類23種に分別する。
細光鋒は、雄山羊のみに存在し、1000匹の雄山羊から数100gしか採取できない。

原毛を扱う業者さんの資料には、そのような記載されている。
但し、時代によって、大雑把に選別されている時期もあり、必ずしも毎回同じ条件で選別されていないようだし、現在もこの基準が守られているかは不明である。

細光鋒の特徴

穂は長めで、一本一本の毛は細かく、しなやかで、艶のある白色。
穂の密集度が高く、軸をもって上下に振ると、穂全体が静かにしなるように揺れる。

「この超長鋒の純羊毫筆は、実用的な書道には不向きなんですけど、感性に訴えるような美しい書道作品の制作に威力を発揮するんですよ。
慣れていない方が使うと、かなり使いにくいと感じられると思います。」

小山さんは、少し驚いた表情で、

「いつも書きやすい筆ばかり探してますけど、使い方によっては、あえて扱いにくい筆をチョイスすることもあるんですね。
この筆って、書道作品を制作するのにどんなメリットがあるんですか?」

穂先の長い羊毛の書道筆を使うメリット

「超長鋒の羊毛筆の最大の特徴は、墨含みのよさと、コシのない穂が生みだす偶然性の線の面白さなんです。

大きなにじみ、やわらかな線、かすれなど、この羊毛筆でなければ出せない偶然性の高い書道作品がうまれるんですよ。
作品サイズ的には、穂が長いので、半切4文字くらい書けます。」

超長鋒の白く輝く美しい羊毛を揺らしながら、小山さんはこちらを見て、

「この穂先見てたら、これでほっぺたを撫でてみたくなりますね。気持ちいいやろうな。」

そう言うと、頬に筆先をあてるジェスチャーをして、いたずらっぽく私に微笑んだ。

「少し触れるだけで気持ちいいですもんね。

でも、本当に筆で頬を撫でたら、穂先に皮膚の油脂がついてしまうから、買い取ってくださいよ。定価で(笑)」

私も冗談で応戦した。

「先週来ていただいた時も見ておられたでしょ?この筆が気になっておられたんですね。」

本来の目的である実用筆を手にしたまま、長い時間穂の長いこの羊毛筆を眺めていたことを覚えていたのだ。
余程気になる筆だったのだろう。

「いや、まだまだ初心者ですから、扱えませんけどね。
それ以前にゼロ1つ読み間違える程、高い筆ですからね~。」

純羊毫超長鋒筆は、長い羊毛を相当数揃えなければならないため、どうしてもお値段も高額で、

特に細嫩光鋒や細微光鋒など最上級の毛質になると、なかなか手が伸びないかなりの価格となる。

「偶然性がうみだす線って、どんな感じやろ。めちゃくちゃ惹かれますわ~。なんか書道する上での目標出来たな。
とはいえ、まずは半紙で楷書を頑張りたいから、今日はこの筆にします!」

と、いつも練習で使用する半紙用の兼毫筆をレジに置いた。

小山さんは、今したいことをワクワクしながら取り組める人で、仕事以外の時間は、かなりの時間を書道に費やしている。

「フロー」という言葉がある。
数年前に仕事仲間の先輩から教えてもらった言葉で、簡単に言えば、ものすごく集中した状態(超集中状態)を指す。

フローというのは、心理学者のチクセントミハイ氏が提唱していて、
人にやらされるのではなく、自分の意思で楽しみながら取り組むとき、人はフロー状態となり、自分でも驚くような実力以上の能力を発揮することがあるのだそうだ。
実は私も一度だけフロー状態を経験したことがある。
中学校3年生のとき、軟式テニス部の最終の試合、実力的に自他共に認める対戦相手にストレートで勝利したのだ。
強い相手にも関わらず、試合中全く負ける気がせず、不思議なことに相手の打球がスローに見え、しかも自分がどこに打てば良いのか軌道が淡い色付きで見えるのだ。
この奇妙な経験は一度きりで、その次の試合は、先程とは嘘のようにボロ負けしてしまう。
何十年もこの経験がなぞだったが、おそらくこれがフロー状態なのだろう。
但し、フロー状態は、自らの意思でなれるものでない特徴もあり、現在アスリートやビジネスマンのマネジメント技術として研究されている。

私が客観的に小山さんの作品・練習量・ワクワク度合いを見る限り、彼は書道に対してフロー状態なのではないかと感じている。
すごく書道を楽しんでいる雰囲気が伝わってくるし、仕事が忙しいはずなのに練習量も多い。
練習量の多さは、半紙を購入するペースで分かる。
とにかく上達スピードが非常に速いのだ。

近い将来、純羊毫の超長鋒筆を手に躍動している小山さんを想像しながら、彼の背中を見送った。

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